「ガラパゴ累乗定理」の版間の差分

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'''ガラパゴ累乗定理'''(ガラパゴるいじょうていり)とは、複素数(あるいは多元数) $$z$$ の累乗は $$r=2\mathrm{Re}(z)$$ と $$l=|z|^2$$ の多項式 $$P$$、$$Q$$ を用いて $$Pz+Q$$ の形で表わせるという定理である。
+
'''ガラパゴ累乗定理'''(ガラパゴるいじょうていり)とは、複素数 $$z$$ の累乗は $$z+\overline{z}$$ と $$z\cdot\overline{z}$$ を元とする多項式より生成される実数を係数とする $$z$$ の一次式で表せるという定理である。
  
[[ガラパゴ数学]]の主定理の一つで、実数 $$+1$$ と複素数 $$+z$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 上の幾何を扱うことを主目的として [[みゆ]] によって導出された。
+
[[ガラパゴ数学]]の主定理の一つで、$$+1$$ $$+z$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 斜交平面上の幾何を扱うことを主目的として [[みゆ]] によって導出された。
  
 
[[ファイル:実数1と複素数Zを基底の元とするR².png |480px|center|border|実数1と複素数Zを基底の元とするR²のイメージ]]
 
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== 概要 ==
 
== 概要 ==
複素数 $$z$$ の 正整数 $$n$$ 乗を、$$r=2\mathrm{Re}(z)$$ と $$l=|z|^2$$ を用いて次のように表す。
+
複素数 $$z$$ の 整数 $$n$$ 乗は、$$l=z\cdotp\bar{z}=|z|^2$$ $$r=z+\bar{z}=2\mathrm{Re}(z)$$ を用いて次のように表せる。
:$$\displaystyle z^n=\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^kr^{n-2k-1}l^{k}\right]z-\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-2)/2\rfloor}\binom{n-k-2}{k}(-1)^kr^{n-2k-2}l^{k}\right]l$$
 
  
:$$z^1=z$$
 
:$$z^2=rz-l$$
 
:$$z^3=(r^2-l)z-rl$$
 
:$$z^4=(r^3-2rl)z-(r^2-l)l$$
 
:$$z^5=(r^4-3r^2l+l^2)z-(r^3-2rl)l$$
 
:$$\quad\quad\quad\quad\vdots$$
 
  
 +
$$\begin{pmatrix}S_{n+1}&S_{n}\\C_{n+1}&C_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}z+\bar{z}&1\\-z\cdotp\bar{z}&0\end{pmatrix}^n=\begin{pmatrix}r&1\\-l&0\end{pmatrix}^n$$ より得られる数列
  
特に $$z=e^{i\theta}$$ のとき、$$r=2\cos\theta$$、$$l=1$$ であることから
 
:$$\displaystyle z^n=\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-1}\right]z-\sum_{k=0}^{\lfloor (n-2)/2\rfloor}\binom{n-k-2}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-2}$$
 
  
:$$z^1=z$$
+
:$$\begin{cases}
:$$z^2=2z\cos\theta-1$$
+
S_0=0\\
:$$z^3=(4\cos^2\theta-1)z-2\cos\theta$$
+
S_1=1\\
:$$z^4=(8\cos^3\theta-4\cos\theta)z-(4\cos^2\theta-1)$$
+
S_{n}=-l(S_{n-2})+r(S_{n-1})
:$$z^5=(16\cos^4\theta-12\cos^2\theta+1)z-(8\cos^3\theta-4\cos\theta)$$
+
\end{cases}$$
:$$\quad\quad\quad\quad\vdots$$
+
 
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を用いて
 +
 
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 +
:$$z^n=C_{n}+S_{n}z=-l(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$
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:$$\begin{array}{l}
 +
z^1=&0+z\\
 +
z^2=&-l+rz\\
 +
z^3=&-rl+(-l+r^2)z\\
 +
z^4=&-(-l+r^2)l+(-2rl+r^3)z\\
 +
z^5=&-(-2rl+r^3)l+(-3r^2l+l^2+r^4)z\\
 +
&\quad\quad\quad\vdots\\
 +
\end{array}$$
 +
 
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ちなみに、数列 $$S_n$$ の一般項は次の通りであり、$$z$$ を生成元とする第1種[[ガラパゴ数列]]と同一である。
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:$$\displaystyle S_{n}=\frac{\displaystyle\left(r+\sqrt{r^2-4l}\right)^n-\left(r-\sqrt{r^2-4l}\right)^n}{\displaystyle2^n\sqrt{r^2-4l}}=\displaystyle\frac{z^n-\overline{z}^{~n}}{z-\overline{z}}=\sum_{k=0}^{n-1}\overline{z}^{~k}\cdot z^{n-k-1}=\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}r^{n-2k-1}l^{k}$$
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===絶対値が1のケース===
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$$z=e^{i\theta}$$ である場合、$$l=z\cdotp\bar{z}=|z|^2=1,~r=z+\bar{z}=2\mathrm{Re}(z)=2\cos\theta$$ であることから
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$$\begin{pmatrix}S_{n+1}&S_{n}\\C_{n+1}&C_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}z+\bar{z}&1\\-z\cdotp\bar{z}&0\end{pmatrix}^n=\begin{pmatrix}2\cos\theta&1\\-1&0\end{pmatrix}^n$$ より得られる数列
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:$$\begin{cases}
 +
S_0=0\\
 +
S_1=1\\
 +
S_{n}=-(S_{n-2})+(2\cos\theta)(S_{n-1})
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\end{cases}~$$
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を用いて
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:$$z^n=C_{n}+S_{n}z=-(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$
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:$$\begin{array}{l}
 +
z^1&=0+z&\\
 +
z^2&=-1+rz&=-1+(2\cos\theta)z\\
 +
z^3&=-r+(-1+r^2)z&=-(2\cos\theta)+[(2\cos\theta)^2-1]z\\
 +
z^4&=-(-1+r^2)+(-2r+r^3)z&=-[(2\cos\theta)^2-1]+[(2\cos\theta)^3-2(2\cos\theta)]z\\
 +
z^5&=-(-2r+r^3)+(-3r^2+1+r^4)z&=-[(2\cos\theta)^3-2(2\cos\theta)]+[(2\cos\theta)^4-3(2\cos\theta)^2+1]z\\
 +
&\quad\quad\quad\vdots\\
 +
\end{array}$$
 +
 
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と表せる。この場合の数列 $$S_n$$ の一般項は次の通りであり、同じく $$z$$ を生成元とする第1種[[ガラパゴ数列]]と同一である。
 +
 
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 +
:$$\displaystyle S_{n}=\frac{\displaystyle\left(\cos\theta+i\sin\theta\right)^n-\left(\cos\theta-i\sin\theta\right)^n}{\displaystyle2i\sin\theta}\left(=\frac{\sin n\theta}{\sin\theta}\right)=\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-1}$$
  
 
==導出==
 
==導出==
$$\{a,b\in\mathbb{Z}\}\{z\in\mathbb{C}\}$$ において、$$+1$$ と $$+i$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 上の複素数 $$z=a+bi$$ を次のように二乗する。
+
$$\{z\in\mathbb{C}\}$$ において、$$\mathbb{R}^2$$ 上の複素数 $$z$$ を次のように二乗する。
 +
 
 +
\begin{align*}
 +
z^2=&z\cdot z\\
 +
=&(-\bar{z}+\bar{z}+z)z\\
 +
=&-(\bar{z}\cdotp z)+(\bar{z}+z)z\\
 +
\end{align*}
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ここで、$$l=\bar{z}\cdotp z,~r=(\bar{z}+z)$$ と置くと
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\begin{align*}
 +
z^2=-l+rz
 +
\end{align*}
 +
 
 +
両辺に $$z$$ を乗じると $$z^3=-lz+rz^2$$ となり、右辺に $$z^2=-l+rz$$ を代入することで一次結合の形へと変形できる。この操作を再帰的に繰り返すことで、任意の整数乗を同形へと帰結させられる。※この導出手順は、分配則や結合則を満たし共役同士の和と積を求めることができる数(四元数など)であれば $$z\in\mathbb{C}$$ の範囲に限らず適用可能であることを示している。
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この $$z^2=-l+rz$$ は $$+1$$ と $$z$$ を基底の元とする斜交座標形式の複素数であり、$$z^2$$ の指し示す座標は $$(-l,r)$$、それぞれの元の指し示す座標は $$(1,0)$$ と $$(0,1)$$ である。ここで $$z$$ と $$z^2$$ を基底の元とする新たな斜交座標系を想定するとそれぞれの元が指し示す座標は旧座標系で $$(0,1)$$ と $$(-l,r)$$ であるため、基底は $$\begin{pmatrix}0&-l\\1&r\end{pmatrix}$$ と表される。旧座標系の基底と比べると原点を中心に $$\mathrm{Arg}~z~(\mathrm{rad})$$ 傾いた姿勢をとっているため、これを累乗することで任意の指数における基底の元の座標を得る。([[ガラパゴ数学]]の乗算の項を参照)
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==幾何イメージ==
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複素平面上の $$0$$ を始点とし $$+1$$ を終点とする位置ベクトル $$\vec{s}$$ と、同じく $$0$$ を始点とし任意の複素数 $$z$$ を終点とする位置ベクトル $$\vec{t}$$ において、原点を中心として $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ の成す角度の整数倍だけ $$\vec{t}$$ を回転させて得られる新たな位置ベクトル $$\vec{t'}$$ は、$$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ を基底の元とするベクトル空間上の1次結合の形で表現可能である。
 +
 
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[[ファイル:ガラパゴ累乗定理.png |480px|center|border|ガラパゴ累乗定理のイメージ]]
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==実数の累乗と数列==
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$$z=\left(\frac{r}2\right)+\left(\mp\sqrt{l-\left(\frac{r}2\right)^2}\right)i$$ は $$z^2=-l+rz$$ の解 であり、
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:$$l=\bar{z}\cdot z$$
 +
:$$r=\bar{z}+z$$
 +
 
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であるため、本定理より次の三項間漸化式による数列を得る。
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:$$\begin{cases}
 +
S_0=0\\
 +
S_1=1\\
 +
S_{n}=-l(S_{n-2})+r(S_{n-1})
 +
\end{cases}$$
 +
 
 +
 
 +
ここで、$$l\leqq\left(\frac{r}2\right)^2$$ のとき $$z$$ は実数となるため実際の虚部は $$0$$ ということになる。
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 +
 
 +
しかし、$$z=a+b=(a)+\left(-\sqrt{-b^2}\right)i$$ と虚部を任意に解釈した場合にも
  
\begin{align}
+
:$$l=\bar{z}\cdot z=a^2-b^2$$
z^2=&(a+bi)(a+bi)\\
+
:$$r=\bar{z}+z=2a$$
=&(a+bi)(2a-(a-bi))\\
 
=&2a(a+bi)-(a+bi)(a-bi)\\
 
=&2a(a+bi)-(a^2+b^2)\\
 
=&2a(a+bi)-\sqrt{a^2+b^2}^2\\
 
=&2\mathrm{Re}(z)z-|z|^2\\
 
\end{align}
 
  
ここで、$$r=2\mathrm{Re}(z)$$$$l=|z|^2$$ と置くと
+
であり、$$z^2=-(a^2-b^2)+2az$$ $$z=a+b$$ において真である。
  
\begin{align}
 
z^2=rz-l
 
\end{align}
 
  
両辺に $$z$$ を乗じると $$z^3=rz^2-lz$$ となり、右辺に $$z^2=rz-1$$ を代入することで $$Pz+Q$$ の形へと変形できる。この操作を再帰的に繰り返し、任意の整数乗を $$Pz+Q$$ の形へと帰結させて恒等式を得る。
+
また、
  
 +
$$\begin{pmatrix}C_{n}&C_{n+1}\\S_{n}&S_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-(a^2-b^2)\\1&2a\end{pmatrix}^n$$ あるいは $$\begin{pmatrix}S_{n+1}\\S_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2a&-(a^2-b^2)\\1&0\end{pmatrix}^n\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$$ より得られる数列
  
上記は $$z\cdot\bar{z}=|z|^2$$($$\bar{z}$$ は $$z$$ の共役)、すなわち「共役同士の積は偏角が相殺されるため結果的に絶対値同士の積に一致する」という性質を利用したものであり、$$\bar{z}$$ を用いて導出を書き改めるなら
 
  
:$$z^2=z\cdot z=z\left(2\mathrm{Re}(z)-\bar{z}\right)=2\mathrm{Re}(z)z-|z|^2$$
+
:$$\begin{cases}
となる。このことは、$$z$$ が四元数など多元数であってもこの定理が成り立つことを示している。
+
S_0=0\\
 +
S_1=1\\
 +
S_{n}=-(a^2-b^2)(S_{n-2})+2a(S_{n-1})
 +
\end{cases}$$
  
==幾何への応用==
 
複素平面上において、$$0$$ を始点とし $$+1$$ を終点とするベクトル $$\vec{s}$$ と、同じく $$0$$ を始点とし実数ではない任意の複素数 $$z$$ を終点とするベクトル $$\vec{t}$$ は線形独立である。$$\vec{t}$$ を、原点を中心として $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ の成す角度の整数倍回転させて得られるベクトル $$\vec{u}$$ は、ガラパゴ累乗定理によって $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ を基底の元とするベクトル空間上に表現可能である。
 
  
 +
を用いても、一般項 $$S_{n}=\frac{\displaystyle(a+b)^n-(a-b)^n}{\displaystyle2b}$$ より
 +
 +
 +
:$$\begin{array}{rl}
 +
z^n=&C_{n}+S_{n}z\\
 +
=&-(a^2-b^2)(S_{n-1})+(a+b)(S_{n})\\
 +
=&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)^n]-(a^2-b^2)[(a+b)^{n-1}-(a-b)^{n-1}]}{2b}\\
 +
=&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)^n]-(a+b)[(a-b)(a+b)^{n-1}-(a-b)^n]}{2b}\\
 +
=&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n]-(a+b)[(a-b)(a+b)^{n-1}]}{2b}\\
 +
=&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)(a+b)^{n-1}]}{2b}\\
 +
=&\displaystyle\frac{(a+b)^n[(a+b)-(a-b)]}{2b}\\
 +
=&(a+b)^n
 +
\end{array}$$
 +
 +
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と真であることを確認できる。
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 +
このことは、複素共役の捉え方を拡張することで実数の累乗にも本定理を応用可能であることを示している。
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===黄金数とフィボナッチ数列===
 +
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 +
黄金数を $$\displaystyle z=\phi=\frac{1+\sqrt5}2=\frac12-\frac{\sqrt{-5}}{2}i$$ とみなして解釈するならば
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 +
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:$$l=\left(\frac12+\frac{\sqrt{-5}}2i\right)\left(\frac12-\frac{\sqrt{-5}}2i\right)=\left(\frac14+\frac{-5}4\right)=-1$$
 +
:$$r=\left(\frac12+\frac{\sqrt{-5}}2i\right)+\left(\frac12-\frac{\sqrt{-5}}2i\right)=1$$
 +
 +
 +
であるため、
 +
 +
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$$\begin{pmatrix}C_{n}&C_{n+1}\\S_{n}&S_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}^n$$ あるいは $$\begin{pmatrix}S_{n+1}\\S_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}^n\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$$ より得られる
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 +
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数列 $$\begin{cases}
 +
S_0=0\\
 +
S_1=1\\
 +
S_{n}=(S_{n-2})+(S_{n-1})
 +
\end{cases}$$ または
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 +
一般項 $$S_{n}=\frac{\displaystyle\left(1+\sqrt{5}\right)^n-\left(1-\sqrt{5}\right)^n}{\displaystyle2^n\sqrt{5}}$$
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を用いて
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:$$z^n=C_{n}+S_{n}z=(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$
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が導かれる。この $$S_n$$ と $$z^n$$ は黄金数とフィボナッチ数列の関係式
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:$$\displaystyle F_n=\frac{\phi^n-(-\phi)^{-n}}{\sqrt{5}}$$
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:$$\phi^n=F_{n-1}+F_n\phi$$
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と同一であることが分かる。
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==応用==
 
===ガラパゴ三辺比定理===
 
===ガラパゴ三辺比定理===
ユークリッド平面上の三角形 $$\triangle OAB$$ において、長さが $$x$$ の辺 $$OA$$ と 長さが $$y$$ の辺 $$AB$$ の成す内角が $$\angle A=\theta~\mathrm{rad}$$ である場合、辺 $$OB$$ を $$O$$ を中心として $$\angle O$$ の偶数倍回転させ、それに伴って各辺の長さを伸縮(負数倍も可)して得られる新たな三角形の三辺比は $$x$$、$$y$$、$$c=\cos\theta$$ の整式で表せるという定理である。これはガラパゴ累乗定理を用いることで容易に導出できるが、詳しくは[[ガラパゴ三辺比定理]]を参照のこと。
+
ユークリッド平面上の三角形 $$\triangle OAB$$ において、長さが $$x$$ の辺 $$OA$$ と 長さが $$y$$ の辺 $$AB$$ の成す内角が $$\angle A=\theta~\mathrm{rad}$$ である場合、辺 $$OB$$ を $$O$$ を中心として $$\angle O$$ の偶数倍回転させ、それに伴って各辺の長さを伸縮(負数倍も可)して得られる新たな三角形の三辺比は $$x$$、$$y$$、$$r=2\cos\theta$$ の整式で表せるという定理である。本定理を用いることで容易に導出できるが、詳しくは[[ガラパゴ三辺比定理]]を参照のこと。
 +
 
  
 
===ガラパゴ三角関数===
 
===ガラパゴ三角関数===
実数 $$+1$$ と複素数 $$z=e^{i\theta}$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$(厳密にいえば $$\theta$$ によっては $$\mathbb{R}^2$$ を成さないが)を想定する。このとき、半径 $$e^{x\cos\theta}$$ として示される螺旋軌道上の座標について、偏角が $$x\sin\theta~(\mathrm{rad})$$ のときの実部と $$z$$ 部を次のように示す。
+
$$+1$$ $$z=e^{i\theta}$$ を理論上の基底の元($$z$$ が実数であっても独立した元であるものとみなして区別)とする斜交座標系において、極座標 $$e^{xz}$$ の示す座標を基底の元の線形結合で表現したときの各元の係数を得る関数として次のような等式を想定する。
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:$$e^{xz}=\cos_zx+z\sin_zx$$
  
:$$e^{xz}=\cos(x,\frac{\theta}{2\pi})+z\sin(x,\frac{\theta}{2\pi})$$
 
  
$$\frac{\theta}{2\pi}$$ が有理数の場合、これらの関数はガラパゴ累乗定理を用いて級数展開可能である。詳しくは[[ガラパゴ三角関数]]を参照のこと。
+
これらの関数 $$\cos_zx$$ と $$\sin_zx$$ は、本定理と非常に密接な関係にある。詳しくは[[ガラパゴ三角関数]]を参照のこと。

2024年1月4日 (木) 13:39時点における最新版

ガラパゴ累乗定理(ガラパゴるいじょうていり)とは、複素数 $$z$$ の累乗は $$z+\overline{z}$$ と $$z\cdot\overline{z}$$ を元とする多項式より生成される実数を係数とする $$z$$ の一次式で表せるという定理である。

ガラパゴ数学の主定理の一つで、$$+1$$ と $$+z$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 斜交平面上の幾何を扱うことを主目的として みゆ によって導出された。

実数1と複素数Zを基底の元とするR²のイメージ


概要

複素数 $$z$$ の 整数 $$n$$ 乗は、$$l=z\cdotp\bar{z}=|z|^2$$ と $$r=z+\bar{z}=2\mathrm{Re}(z)$$ を用いて次のように表せる。


$$\begin{pmatrix}S_{n+1}&S_{n}\\C_{n+1}&C_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}z+\bar{z}&1\\-z\cdotp\bar{z}&0\end{pmatrix}^n=\begin{pmatrix}r&1\\-l&0\end{pmatrix}^n$$ より得られる数列


$$\begin{cases} S_0=0\\ S_1=1\\ S_{n}=-l(S_{n-2})+r(S_{n-1}) \end{cases}$$


を用いて


$$z^n=C_{n}+S_{n}z=-l(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$
$$\begin{array}{l} z^1=&0+z\\ z^2=&-l+rz\\ z^3=&-rl+(-l+r^2)z\\ z^4=&-(-l+r^2)l+(-2rl+r^3)z\\ z^5=&-(-2rl+r^3)l+(-3r^2l+l^2+r^4)z\\ &\quad\quad\quad\vdots\\ \end{array}$$


ちなみに、数列 $$S_n$$ の一般項は次の通りであり、$$z$$ を生成元とする第1種ガラパゴ数列と同一である。


$$\displaystyle S_{n}=\frac{\displaystyle\left(r+\sqrt{r^2-4l}\right)^n-\left(r-\sqrt{r^2-4l}\right)^n}{\displaystyle2^n\sqrt{r^2-4l}}=\displaystyle\frac{z^n-\overline{z}^{~n}}{z-\overline{z}}=\sum_{k=0}^{n-1}\overline{z}^{~k}\cdot z^{n-k-1}=\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}r^{n-2k-1}l^{k}$$


絶対値が1のケース

$$z=e^{i\theta}$$ である場合、$$l=z\cdotp\bar{z}=|z|^2=1,~r=z+\bar{z}=2\mathrm{Re}(z)=2\cos\theta$$ であることから


$$\begin{pmatrix}S_{n+1}&S_{n}\\C_{n+1}&C_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}z+\bar{z}&1\\-z\cdotp\bar{z}&0\end{pmatrix}^n=\begin{pmatrix}2\cos\theta&1\\-1&0\end{pmatrix}^n$$ より得られる数列


$$\begin{cases} S_0=0\\ S_1=1\\ S_{n}=-(S_{n-2})+(2\cos\theta)(S_{n-1}) \end{cases}~$$


を用いて


$$z^n=C_{n}+S_{n}z=-(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$
$$\begin{array}{l} z^1&=0+z&\\ z^2&=-1+rz&=-1+(2\cos\theta)z\\ z^3&=-r+(-1+r^2)z&=-(2\cos\theta)+[(2\cos\theta)^2-1]z\\ z^4&=-(-1+r^2)+(-2r+r^3)z&=-[(2\cos\theta)^2-1]+[(2\cos\theta)^3-2(2\cos\theta)]z\\ z^5&=-(-2r+r^3)+(-3r^2+1+r^4)z&=-[(2\cos\theta)^3-2(2\cos\theta)]+[(2\cos\theta)^4-3(2\cos\theta)^2+1]z\\ &\quad\quad\quad\vdots\\ \end{array}$$


と表せる。この場合の数列 $$S_n$$ の一般項は次の通りであり、同じく $$z$$ を生成元とする第1種ガラパゴ数列と同一である。


$$\displaystyle S_{n}=\frac{\displaystyle\left(\cos\theta+i\sin\theta\right)^n-\left(\cos\theta-i\sin\theta\right)^n}{\displaystyle2i\sin\theta}\left(=\frac{\sin n\theta}{\sin\theta}\right)=\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-1}$$

導出

$$\{z\in\mathbb{C}\}$$ において、$$\mathbb{R}^2$$ 上の複素数 $$z$$ を次のように二乗する。

\begin{align*} z^2=&z\cdot z\\ =&(-\bar{z}+\bar{z}+z)z\\ =&-(\bar{z}\cdotp z)+(\bar{z}+z)z\\ \end{align*}

ここで、$$l=\bar{z}\cdotp z,~r=(\bar{z}+z)$$ と置くと

\begin{align*} z^2=-l+rz \end{align*}

両辺に $$z$$ を乗じると $$z^3=-lz+rz^2$$ となり、右辺に $$z^2=-l+rz$$ を代入することで一次結合の形へと変形できる。この操作を再帰的に繰り返すことで、任意の整数乗を同形へと帰結させられる。※この導出手順は、分配則や結合則を満たし共役同士の和と積を求めることができる数(四元数など)であれば $$z\in\mathbb{C}$$ の範囲に限らず適用可能であることを示している。


この $$z^2=-l+rz$$ は $$+1$$ と $$z$$ を基底の元とする斜交座標形式の複素数であり、$$z^2$$ の指し示す座標は $$(-l,r)$$、それぞれの元の指し示す座標は $$(1,0)$$ と $$(0,1)$$ である。ここで $$z$$ と $$z^2$$ を基底の元とする新たな斜交座標系を想定するとそれぞれの元が指し示す座標は旧座標系で $$(0,1)$$ と $$(-l,r)$$ であるため、基底は $$\begin{pmatrix}0&-l\\1&r\end{pmatrix}$$ と表される。旧座標系の基底と比べると原点を中心に $$\mathrm{Arg}~z~(\mathrm{rad})$$ 傾いた姿勢をとっているため、これを累乗することで任意の指数における基底の元の座標を得る。(ガラパゴ数学の乗算の項を参照)


幾何イメージ

複素平面上の $$0$$ を始点とし $$+1$$ を終点とする位置ベクトル $$\vec{s}$$ と、同じく $$0$$ を始点とし任意の複素数 $$z$$ を終点とする位置ベクトル $$\vec{t}$$ において、原点を中心として $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ の成す角度の整数倍だけ $$\vec{t}$$ を回転させて得られる新たな位置ベクトル $$\vec{t'}$$ は、$$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ を基底の元とするベクトル空間上の1次結合の形で表現可能である。

ガラパゴ累乗定理のイメージ


実数の累乗と数列

$$z=\left(\frac{r}2\right)+\left(\mp\sqrt{l-\left(\frac{r}2\right)^2}\right)i$$ は $$z^2=-l+rz$$ の解 であり、

$$l=\bar{z}\cdot z$$
$$r=\bar{z}+z$$

であるため、本定理より次の三項間漸化式による数列を得る。


$$\begin{cases} S_0=0\\ S_1=1\\ S_{n}=-l(S_{n-2})+r(S_{n-1}) \end{cases}$$


ここで、$$l\leqq\left(\frac{r}2\right)^2$$ のとき $$z$$ は実数となるため実際の虚部は $$0$$ ということになる。


しかし、$$z=a+b=(a)+\left(-\sqrt{-b^2}\right)i$$ と虚部を任意に解釈した場合にも

$$l=\bar{z}\cdot z=a^2-b^2$$
$$r=\bar{z}+z=2a$$

であり、$$z^2=-(a^2-b^2)+2az$$ は $$z=a+b$$ において真である。


また、

$$\begin{pmatrix}C_{n}&C_{n+1}\\S_{n}&S_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-(a^2-b^2)\\1&2a\end{pmatrix}^n$$ あるいは $$\begin{pmatrix}S_{n+1}\\S_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2a&-(a^2-b^2)\\1&0\end{pmatrix}^n\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$$ より得られる数列


$$\begin{cases} S_0=0\\ S_1=1\\ S_{n}=-(a^2-b^2)(S_{n-2})+2a(S_{n-1}) \end{cases}$$


を用いても、一般項 $$S_{n}=\frac{\displaystyle(a+b)^n-(a-b)^n}{\displaystyle2b}$$ より


$$\begin{array}{rl} z^n=&C_{n}+S_{n}z\\ =&-(a^2-b^2)(S_{n-1})+(a+b)(S_{n})\\ =&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)^n]-(a^2-b^2)[(a+b)^{n-1}-(a-b)^{n-1}]}{2b}\\ =&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)^n]-(a+b)[(a-b)(a+b)^{n-1}-(a-b)^n]}{2b}\\ =&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n]-(a+b)[(a-b)(a+b)^{n-1}]}{2b}\\ =&\displaystyle\frac{(a+b)[(a+b)^n-(a-b)(a+b)^{n-1}]}{2b}\\ =&\displaystyle\frac{(a+b)^n[(a+b)-(a-b)]}{2b}\\ =&(a+b)^n \end{array}$$


と真であることを確認できる。


このことは、複素共役の捉え方を拡張することで実数の累乗にも本定理を応用可能であることを示している。


黄金数とフィボナッチ数列

黄金数を $$\displaystyle z=\phi=\frac{1+\sqrt5}2=\frac12-\frac{\sqrt{-5}}{2}i$$ とみなして解釈するならば


$$l=\left(\frac12+\frac{\sqrt{-5}}2i\right)\left(\frac12-\frac{\sqrt{-5}}2i\right)=\left(\frac14+\frac{-5}4\right)=-1$$
$$r=\left(\frac12+\frac{\sqrt{-5}}2i\right)+\left(\frac12-\frac{\sqrt{-5}}2i\right)=1$$


であるため、


$$\begin{pmatrix}C_{n}&C_{n+1}\\S_{n}&S_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}^n$$ あるいは $$\begin{pmatrix}S_{n+1}\\S_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}^n\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$$ より得られる


数列 $$\begin{cases} S_0=0\\ S_1=1\\ S_{n}=(S_{n-2})+(S_{n-1}) \end{cases}$$ または


一般項 $$S_{n}=\frac{\displaystyle\left(1+\sqrt{5}\right)^n-\left(1-\sqrt{5}\right)^n}{\displaystyle2^n\sqrt{5}}$$


を用いて


$$z^n=C_{n}+S_{n}z=(S_{n-1})+(S_{n})z\\$$


が導かれる。この $$S_n$$ と $$z^n$$ は黄金数とフィボナッチ数列の関係式


$$\displaystyle F_n=\frac{\phi^n-(-\phi)^{-n}}{\sqrt{5}}$$
$$\phi^n=F_{n-1}+F_n\phi$$


と同一であることが分かる。


応用

ガラパゴ三辺比定理

ユークリッド平面上の三角形 $$\triangle OAB$$ において、長さが $$x$$ の辺 $$OA$$ と 長さが $$y$$ の辺 $$AB$$ の成す内角が $$\angle A=\theta~\mathrm{rad}$$ である場合、辺 $$OB$$ を $$O$$ を中心として $$\angle O$$ の偶数倍回転させ、それに伴って各辺の長さを伸縮(負数倍も可)して得られる新たな三角形の三辺比は $$x$$、$$y$$、$$r=2\cos\theta$$ の整式で表せるという定理である。本定理を用いることで容易に導出できるが、詳しくはガラパゴ三辺比定理を参照のこと。


ガラパゴ三角関数

$$+1$$ と $$z=e^{i\theta}$$ を理論上の基底の元($$z$$ が実数であっても独立した元であるものとみなして区別)とする斜交座標系において、極座標 $$e^{xz}$$ の示す座標を基底の元の線形結合で表現したときの各元の係数を得る関数として次のような等式を想定する。


$$e^{xz}=\cos_zx+z\sin_zx$$


これらの関数 $$\cos_zx$$ と $$\sin_zx$$ は、本定理と非常に密接な関係にある。詳しくはガラパゴ三角関数を参照のこと。