「集合論」の版間の差分

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また高校数学では、集合論の基礎的な一部とその前提知識として要求される論理がカリキュラムとして数学Aに導入されている。
 
また高校数学では、集合論の基礎的な一部とその前提知識として要求される論理がカリキュラムとして数学Aに導入されている。
  
==前史==
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==数学史的な経緯とその後==
冒頭で触れたように、集合論という分野はカントールによって創始された。カントールはフーリエ級数に関する論文「三角級数論の一定理の拡張について」(1872)のなかで現在の集合論に至る基礎的な概念を登場させた。
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===三角級数論の解決としての集合の導入===
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冒頭で触れたように、集合論という分野はカントールによって創始された。カントールは論文「三角級数の一定理の拡張について」(1872)などで現在の集合論に至るための骨子となる概念を導入した。
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その後、カントールは「超限集合論の基礎についての寄与」(1895)で集合を次のように定義した。
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::'''集合とは、確定的で、十分に区別される、われわれの直観または思考の対象$$m$$を一つの全体にまとめて把握したものである。'''(ここで対象は$$M$$の元と名付けられる。)
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===パラドックスの発生とその解決===
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このようにしてカントールによって構成されていった一般集合論は、イタリアの数学者ブライリー・フォルティ(1861 ~ 1931)によってある論理的パラドックスが存在していることが指摘された。このパラドックスはフォルティの友人であるイギリスの数学者バートランド・ラッセル(1872 ~ 1970)によって次のように定式化された。
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::いま自然数$$N$$をとってみる。$$N$$の元は$$0,1,2, \cdots $$のように自然数からできている。したがって$$N$$自身は$$N$$の元になっていない。つまり自分自身を元として持っていない集合は存在する。したがって$$X \notin X$$となる集合$$X$$が必ず存在する。$$X \notin X$$となるような集合$$X$$を全部集める。
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::カントールの定義によるとこれは可能で、集めたものはまた一つの集合を作る。
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::このとき、この集合を$$A$$としたとき、次のようなパラドックスが生じる。
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::(1)$$A$$は集合である。
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::(2)この$$A$$に対して、$$A \notin A$$か$$A \in A$$のいずれか一方が必ず成り立つ。
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::(3)$$A\notin A$$と仮定する。このとき、$$A \in \{X | X \notin X\}$$となるが、$$A = \{X | X \notin X\}$$としたことから、$$A \in A$$となってしまい矛盾する。
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::(4)$$A \in A$$と仮定する。このとき、$$A \notin \{X | X \notin X \}$$と なるがことから、$$A \notin A$$となってしまい、矛盾する。
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::(5)このことから、パラドックスが生じた。
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これは一般的に'''ラッセルのパラドックス'''と呼ばれ、このパラドックスを解消するための措置として 、ドイツの数学者エルンスト・ツェルメロ(1871 ~ 1953)と、イスラエルの数学者アドルフ・フレンケル(1891 ~ 1965)によって公理的集合論(ZF体型)として改良されていった。
 
==集合==
 
==集合==
 
'''集合'''(set)とは「ものの集まり」を意味している。この集められる対象となる「もの」を集合の要素あるいは単に'''元'''(element)という。(以下、元で統一する。)
 
'''集合'''(set)とは「ものの集まり」を意味している。この集められる対象となる「もの」を集合の要素あるいは単に'''元'''(element)という。(以下、元で統一する。)
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さらに、始域$$A$$から終域$$B$$への上への一対一写像のとき、つまり全射かつ単射であるような関係を'''全単射'''と呼ぶ。
 
さらに、始域$$A$$から終域$$B$$への上への一対一写像のとき、つまり全射かつ単射であるような関係を'''全単射'''と呼ぶ。
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$$f: A \rightarrow A$$が$$f(a) = a, (a \in A)$$を満たすとき、これを'''恒等写像'''といい、$$i_a$$と表す。
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==直積とべき集合==
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2つの空ではない集合$$A, B$$に対して、
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$$A \times B \equiv \{ (a, b) | a \in A, b \in B\}$$
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を$$A$$と$$B$$の'''直積集合'''という。このときの元$$(a,b)$$を'''順序対'''という。
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集合族$$\{X_\alpha; \alpha \in J\}$$を考える。 各$$\alpha \in J$$にある

2021年1月10日 (日) 01:56時点における版

Je le vois, mais je ne le crois pas
(「私にはそれが見えるが、しかし信じることができない」)
        --G.カントール:R.デデキントとの書簡より


集合論とは、集合を中心に扱う数学の分野で、19世紀後半のドイツの数学者ゲオルク・カントール(1845 ~ 1918)によって創始され、その後の現代の数学分野に大きな影響を及ぼした。

また高校数学では、集合論の基礎的な一部とその前提知識として要求される論理がカリキュラムとして数学Aに導入されている。

数学史的な経緯とその後

三角級数論の解決としての集合の導入

冒頭で触れたように、集合論という分野はカントールによって創始された。カントールは論文「三角級数の一定理の拡張について」(1872)などで現在の集合論に至るための骨子となる概念を導入した。

その後、カントールは「超限集合論の基礎についての寄与」(1895)で集合を次のように定義した。

集合とは、確定的で、十分に区別される、われわれの直観または思考の対象$$m$$を一つの全体にまとめて把握したものである。(ここで対象は$$M$$の元と名付けられる。)

パラドックスの発生とその解決

このようにしてカントールによって構成されていった一般集合論は、イタリアの数学者ブライリー・フォルティ(1861 ~ 1931)によってある論理的パラドックスが存在していることが指摘された。このパラドックスはフォルティの友人であるイギリスの数学者バートランド・ラッセル(1872 ~ 1970)によって次のように定式化された。

いま自然数$$N$$をとってみる。$$N$$の元は$$0,1,2, \cdots $$のように自然数からできている。したがって$$N$$自身は$$N$$の元になっていない。つまり自分自身を元として持っていない集合は存在する。したがって$$X \notin X$$となる集合$$X$$が必ず存在する。$$X \notin X$$となるような集合$$X$$を全部集める。
カントールの定義によるとこれは可能で、集めたものはまた一つの集合を作る。
このとき、この集合を$$A$$としたとき、次のようなパラドックスが生じる。
(1)$$A$$は集合である。
(2)この$$A$$に対して、$$A \notin A$$か$$A \in A$$のいずれか一方が必ず成り立つ。
(3)$$A\notin A$$と仮定する。このとき、$$A \in \{X | X \notin X\}$$となるが、$$A = \{X | X \notin X\}$$としたことから、$$A \in A$$となってしまい矛盾する。
(4)$$A \in A$$と仮定する。このとき、$$A \notin \{X | X \notin X \}$$と なるがことから、$$A \notin A$$となってしまい、矛盾する。
(5)このことから、パラドックスが生じた。

これは一般的にラッセルのパラドックスと呼ばれ、このパラドックスを解消するための措置として 、ドイツの数学者エルンスト・ツェルメロ(1871 ~ 1953)と、イスラエルの数学者アドルフ・フレンケル(1891 ~ 1965)によって公理的集合論(ZF体型)として改良されていった。

集合

集合(set)とは「ものの集まり」を意味している。この集められる対象となる「もの」を集合の要素あるいは単に(element)という。(以下、元で統一する。)

また、元が1つもないような集合のことを空集合(empty set)といい、$$\emptyset$$と表現する。

集合を$$X$$、$$X$$の元を$$x$$としたとき、$$x$$ が$$X$$の元であることを、$$x \in X$$ 、あるいは$$x$$が$$X$$の元でないことを、$$x \notin X$$と表し、こうした集合の元と、元が含まれる集合との関係を帰属関係という。


$$X$$の全ての$$x$$が別の集合$$Y$$の元であるような関係( $$x \in X, x \in Y$$)を、$$X \subset Y$$, あるいは$$X \subseteq Y$$と表現し、このような集合同士の関係を包含関係と言い、この関係における集合$$X$$は、集合$$Y$$の部分集合(subset) $$X$$という。また$$x \in X$$であり$$ X \neq Y$$となるような包含関係を真部分集合(proper subset)という。


$$P$$を一つの数学的な命題とする。このとき命題$$P$$を満たすような $$x$$ を$$P(x)$$、また命題$$P$$を満たす $$x$$ 全体を$$\{ x | P(x)\}$$と表現する。

よって、例えば実数全体の集合$$\mathbb{R}$$は次のように表せる。

$$\mathbb{R} = \{x | -\infty < x < \infty \}$$

集合同士の演算

全体集合を$$U$$, $$U$$の元を$$x$$、部分集合を$$A, B$$とする。

このとき、$$x$$が$$A, B$$の元のいずれかであるような集合を和集合といい、次のように表す。

$$A \cup B \equiv \{ x \in U | x \in A$$ または $$ x \in B\}$$

また $$x$$ が$$A$$と$$B$$の共通の元であるような集合を共通集合いい、次のように表す。

$$A \cap B \equiv \{ x \in U | x \in A$$ かつ $$x \in B\}$$

このような、和集合$$A \cup B$$は、AとBの「結び」(join)と呼び、共通集合$$A \cap B$$は、AとBの「交わり」(meet)と呼ぶ。


$$A \cap B = \emptyset$$のとき、AとBは互いに素である。このときの$$A \cup B$$を$$A + B$$と表すことができ、これを$$A$$と$$B$$の直和という。

$$x$$が2つの$$A, B$$に対して、$$A$$のみの元であるような集合を差集合、またこのときの$$B$$を$$A$$に関する補集合$$B^\complement$$と言い、以下のように表すことができる。

$$B^\complement = A \setminus B \equiv \{x \in U | x \in A, x \notin B\}$$

また差集合は$$A-B$$と表すこともできる。


補集合に関する公式としてド・モルガンの法則がある。

$$ (A\cup B)^\complement = A^\complement \cap B^\complement\\ (A\cap B)^\complement = A^\complement \cup B^\complement $$

写像

集合を$$A, B$$、$$A, B$$の元をそれぞれ$$a, b$$とする。

$$A$$の各元に$$B$$の1つの元を対応させるような規則 $$f$$を$$A$$から$$B$$への写像(map)といい、$$f: A \rightarrow B$$と表す。

このとき$$A$$を 始域または$$f$$の定義域、$$B$$を終域、または $$f$$の値域という。

像と逆像

写像 $$f:A\rightarrow B$$によって$$a \in A$$に対応する$$B$$の元を、$$a$$の$$f$$によるといい、$$f(a)$$と表す。

一方で、$$B$$の元が対応する$$A$$のことを逆像といい、この場合、$$f^{-1}(a)$$と表す。


新たな集合$$C$$を考え、またその元を$$c$$とする。 2つの写像$$f: A \rightarrow B, g: B \rightarrow C$$に対して、$$f$$と$$g$$のこれを合成といい、$$f \circ g$$と表す。

またこの$$f \circ g$$は$$A$$から$$C$$への写像を意味している。

写像$$f: A\rightarrow B$$を考える。

このとき、始域となる集合$$A$$と終域の集合$$B$$の元が一致するときの関係を全射という。またこれを上への写像とも呼ぶ。

一方で、始域$$A$$の元が終域$$B$$の元と一対一で対応しているような関係を単射という。またこれを一対一写像とも呼ぶ。

さらに、始域$$A$$から終域$$B$$への上への一対一写像のとき、つまり全射かつ単射であるような関係を全単射と呼ぶ。

$$f: A \rightarrow A$$が$$f(a) = a, (a \in A)$$を満たすとき、これを恒等写像といい、$$i_a$$と表す。

直積とべき集合

2つの空ではない集合$$A, B$$に対して、 $$A \times B \equiv \{ (a, b) | a \in A, b \in B\}$$ を$$A$$と$$B$$の直積集合という。このときの元$$(a,b)$$を順序対という。

集合族$$\{X_\alpha; \alpha \in J\}$$を考える。 各$$\alpha \in J$$にある