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素微分(そびぶん、Arithmetic derivative)とは、数値に対して定義された微分の類似物である。

一般の微分法では、定数は微分すると$$0$$になるが、素微分では、定数は素微分しても$$0$$になるとは限らない。

そのため、一般の微分法とは異なる手法であることに注意していただきたい。

以下、特に断りがない限り$$a,b\in \mathbb{Q},p$$:素数とする。

目次

定義

自然数$$n$$を

$$\displaystyle n=\prod_{i=1}^{\infty}p_i^{q_i}$$

と素因数分解する。($$p_{i}$$は$$i$$番目に小さい素数)

このとき$$n$$の素微分$$n'$$を

$$\displaystyle n'=\left(\prod_{i=1}^{\infty}p_i^{q_i}\right)\left(\sum_{j=1}^{\infty}\frac{q_j}{p_j}\right)$$

と定義する。

この形から、素因数分解の一意性が成り立つことより素微分も一意に定まることが容易にわかる。

また

$$n'>n,n'<n,n'=n$$

となるとき、$$n$$をそれぞれ素微分過剰数,素微分不足数,素微分完全数という。

$$\begin{align*} 14'=&(2\times 7)'\\ =&14\times \left(\frac{1}{2}+\frac{1}{7}\right)\\ =&7+2\\ =&9 \end{align*}$$

(素微分不足数)

$$\begin{align*} 12'=&(2^2\times 3)'\\ =&12\times\left(1+\frac13\right)\\ =&12\times \frac43\\ =&16 \end{align*}$$

(素微分過剰数)

性質

定義より

$$\begin{align*} 0'=&1'=0\\ p'=&1\\ (ab)'=&a'b+ab'\\ (abcd\cdots)' =& a'bcd\cdots + ab'cd\cdots + abc'd\cdots + abcd'\cdots + \cdots \\ (a^n)'=&(a \cdot a \cdot a \cdot \cdots)' \\ =& a'a \cdot a \cdots + a \cdot a' \cdot a \cdots + a \cdot a \cdot a' \cdots + \cdots \\ =& na^{n-1}a' \\ ((abc\cdots)^n)' =& (a^nb^nc^n\cdots)' \\ =&n a' a^{n-1} b^n c^n \cdots + n b' a^n b^{n-1} c^n \cdots + n c' a^n b^n c^{n-1} \cdots + \cdots \\ =&n a^{n-1} b^{n-1} c^{m-1}\cdots (a'bc \cdots + ab'c \cdots + abc' \cdots + \cdots)\\ =&n(abc\cdots)^{n-1}(abc\cdots)' \end{align*}$$

特に,

$$\begin{align*} (p^a)'=&ap^{a-1}\\ (p^p)'=&p^p \end{align*}$$

などが分かる。

拡張

有理数・一部の無理数

$$q_i$$を有理数まで許すと同様の定義で一部の無理数($$a,b\in \mathbb{Q},a^b$$と書けるもの)まで素微分を拡張できる。

複素数

複素数への拡張に際して、便宜上、絶対値が$$1$$であるような数の素微分は$$0$$と定義する。

つまり$$i$$を虚数単位とするとき

$$\begin{align*} (a+bi)'=&\left(|a+bi|e^{i\textrm{Arg}(a+bi)}\right)'\\ =&|a+bi|'e^{i\textrm{Arg}(a+bi)}\\ =&\left(\sqrt{a^2+b^2}\right)'e^{i\textrm{Arg}(a+bi)}\\ =&\frac{(a^2+b^2)'}{2(a^2+b^2)}(a+bi) \end{align*}$$

となる。

対数素微分

ある素微分が定義できる数$$a$$に対し、

$$\begin{align*} \text{ld}(a)=&\frac{a'}{a}\\ =&\sum_{i=0}^{j-1}\frac{q_i}{p_i} \end{align*}$$

を$$a$$の対数素微分(関数)(arithmetically logarithmic (function))という。

便宜上$$\text{ld}(0)=\infty$$とする。

この関数は完全加法的(つまり$$\text{ld}(ab)=\text{ld}(a)+\text{ld}(b)$$を満たす)である。

$$\begin{align*} \text{ld}(90)=&\text{ld}(2\cdot 3^2\cdot 5)\\ =&\frac12+\frac23+\frac15\\ =&\frac{41}{30} \end{align*}$$
$$\text{ld}(n^k)=k\text{ld}(n)$$

応用例

この関数を使うと、素微分完全数が$$p^p$$の形に限られることが容易に示せる。

(証明始)

まず、素微分完全数のほかに$$2$$以上の素因数に持つ数は、明らかに素微分過剰数である。

よって、素微分完全数$$a$$を$$a=p^kn$$($$k$$は自然数、$$n$$は素微分完全数でない自然数で$$p$$と$$n$$は互いに素)と書くと

$$\begin{align*} \text{ld}(a)=&\text{ld}(p^kn)\\ =&k\text{ld}(p)+\text{ld}(n)\\ =&\frac{k}{p}+\frac{n'}{n} \end{align*}$$

ここで$$a$$が素微分完全数であるから$$a=a'$$より$$\text{ld}(a)=1$$である。

よって

$$\begin{align*} \frac{k}{p}+\frac{n'}{n}=&1\\ kn+pn'=&pn\\ p(n-n')=&kn\\ p(1-\text{ld}(n))=&k \end{align*}$$

$$p,k\in \mathbb{N}$$より

$$1-\text{ld}(n)\geqq 0\cdots(1)$$

が成り立ち、$$n\in \mathbb{N}$$から$$\text{ld}(n)\geqq 0$$となり、仮定より$$n$$は素微分完全数でなく、$$n$$は$$p$$を約数に持たないので$$(1)$$と合わせて$$\text{ld}(n)=0$$となって$$n=1$$が分かる。

よって$$p=k,n=1$$より、$$a=p^p$$となる。

(証明終)

不等式

$$\displaystyle n=\prod_{i=1}^{\infty}p_i^{q_i}$$

となるとき

$$\displaystyle n'=n\sum_{i=1}^{\infty}\frac{q_i}{p_i}$$

であり、相加相乗平均を用いることで

$$n'\geqq\Omega(n)n^{\frac{\Omega(n)-1}{\Omega(n)}}$$

を得る。(等号成立は$$n=p^a$$のとき)

対数素微分を用いると$$n>0$$のとき

$$\text{ld}(n)\geqq \Omega(n)n^{-\frac{1}{\Omega(n)}}$$

と書ける。

このとき、$$\Omega(n)$$は

$$\displaystyle\Omega(n)=\sum_{i=1}^{\infty}q_i$$

で定義されるビッグオメガ関数である。

素底を用いた定義

定義

素底(そてい)とは素数を拡張した概念である。

自然数$$n$$に対して

$$\displaystyle n=\prod_{i=1}^{\infty}p_i^{q_i}$$ ($$q_i$$:有理数)

と書いたときに一意性(素底因数分解の一意性)が成り立つような$$p_i$$を素底という。

例えば$$2,6$$が素底だった時、$$3$$は$$2^{-1}\times 6=3$$と表わされるため素底でない。

特に記述がない場合、素底は素数とする。

このとき、$$n$$の(拡張した)素微分を

$$\displaystyle n'=\left(\prod_{i=1}^{\infty}p_i^{q_i}\right)\left(\sum_{j=1}^{\infty}\frac{q_i}{p_i}\right) = \sum_{j=1}^{\infty} q_j \cdot \frac{\prod_{k=1}^{\infty}{p_k}^{q_i}}{p_j}$$

と定義する。

これにより、$$1' = (p^0)' = 1 \cdot \frac{0}{p} = 0$$と定まる。便宜上、絶対値が$$1$$であるような数の素微分値も$$0$$とすることで多元数に対する素微分を定義できる。

例: $$(3+4i)'=(|3+4i|e^{iArg(3+4i)})'=5'e^{i\mathrm{Arg}(3+4i)}+0=e^{i\mathrm{Arg}(3+4i)}=\frac{3}{5}+\frac{4}{5}i$$

$$2$$の代わりに$$4$$を素底としたときの$$6$$の素微分$$6'$$は

$$\begin{align*} 6'=&(2\times 3)'\\ =&(4^{\frac12}\times 3)'\\ =&\frac12\times 4^{-\frac12}\times 3+4^{\frac12}\\ =&\frac34+2\\ =&\frac{11}{4} \end{align*}$$

既存数学への応用

素数の無限性

(証明始)

補題:$$p,n$$に対して$$(pn)'$$が$$p$$の倍数であることの必要十分条件は$$n$$が$$p$$の倍数であることである

(補題証明始)

いま$$n$$が$$p$$の倍数であるとすると、$$(pn)'=n+pn'$$より左辺は$$p$$の倍数となる。 逆に$$(pn)'$$が$$p$$の倍数であるとすると、$$(pn)'=n+pn'\equiv 0(\text{mod}p)\Rightarrow n\equiv 0(\text{mod}p)$$なので示された。

(補題証明終)

いま$$2$$から$$p(\geqq5)$$までを全て掛け合わせた素数階乗を$$P$$とする。

$$P=2\times 3\times \ldots \times p$$

このとき、$$\displaystyle P'=\left(2\times \frac{P}{2}\right)'$$であり、$$\displaystyle \frac{P}{2}$$は$$2$$の倍数でない。 よって補題より$$P'$$は$$2$$の倍数でない。 同様に$$P'$$は$$3,5,\ldots ,p$$の倍数でない。 そして$$P$$は合成数より、$$P'$$は$$1$$より大きいから少なくとも1つの素因数をもつ。 また、$$\text{ld}(P)=\frac12+\frac13+\ldots+\frac1p≧\frac12+\frac13+\frac15>1$$なので$$P'>P$$。 ゆえに$$P'$$は$$p$$より大きい素因数をもつ。 これよりいくらでも大きい素数を作れるので素数は無限個存在することが示された。

(証明終)

未解決問題

素微分友愛数の存在

$$n,m\in \mathbb{N}$$とする。

$$\begin{align*} n'=&m\\ m'=&n\\ \end{align*}$$

を満たす$$m,n$$の組を素微分友愛数とする。

現在、素微分完全数以外の素微分友愛数は見つかっておらず、存在するかしないかの証明はなされていない。


素微分社交数の存在

$$n$$は$$3$$以上の自然数、$$k$$を$$1$$以上$$n$$未満の任意の整数として、$$a_k\in \mathbb{N}$$とする。

$$\begin{align*} {a_k}'=&a_{k+1}\\ {a_n}'=&a_1\\ \end{align*}$$

を満たす相異なる自然数$$a_1,\ldots ,a_n$$の組を素微分社交数とする。

現在、素微分完全数以外の素微分社交数は見つかっておらず、存在するかしないかの証明はなされていない。