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集合論

2021年1月12日 (火) 22:33時点におけるマルセル・スワン (トーク | 投稿記録)による版
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Je le vois, mais je ne le crois pas
(「私にはそれが見えるが、しかし信じることができない」)
        --G.カントール:R.デデキントとの書簡より


集合論とは、集合を中心に扱う数学の分野で、19世紀後半のドイツの数学者ゲオルク・カントール(1845 ~ 1918)によって創始され、その後の現代の数学分野に大きな影響を及ぼした。

また高校数学では、集合論の基礎的な一部とその前提知識として要求される論理がカリキュラムとして数学Aに導入されている。逆に写像や、ベキ集合、商集合といった内容はカリキュラムから除外されている。

目次

数学史的な経緯とその後

三角級数論の解決としての集合の導入

冒頭で触れたように、集合論という分野はカントールによって創始された。カントールは論文「三角級数の一定理の拡張について」(1872)などで現在の集合論に至るための骨子となる概念を導入した。

その後、カントールは「超限集合論の基礎についての寄与」(1895)で集合を次のように定義した。

集合とは、確定的で、十分に区別される、われわれの直観または思考の対象$$m$$を一つの全体にまとめて把握したものである。(ここで対象は$$M$$の元と名付けられる。)

パラドックスの発生とその解決

このようにしてカントールによって構成されていった一般集合論は、イタリアの数学者ブライリー・フォルティ(1861 ~ 1931)によってある論理的パラドックスが存在していることが指摘された。このパラドックスはフォルティの友人であるイギリスの数学者バートランド・ラッセル(1872 ~ 1970)によって次のように定式化された。

いま自然数$$N$$をとってみる。$$N$$の元は$$0,1,2, \cdots $$のように自然数からできている。したがって$$N$$自身は$$N$$の元になっていない。つまり自分自身を元として持っていない集合は存在する。したがって$$X \notin X$$となる集合$$X$$が必ず存在する。$$X \notin X$$となるような集合$$X$$を全部集める。
カントールの定義によるとこれは可能で、集めたものはまた一つの集合を作る。
このとき、この集合を$$A$$としたとき、次のようなパラドックスが生じる。
(1)$$A$$は集合である。
(2)この$$A$$に対して、$$A \notin A$$か$$A \in A$$のいずれか一方が必ず成り立つ。
(3)$$A\notin A$$と仮定する。このとき、$$A \in \{X | X \notin X\}$$となるが、$$A = \{X | X \notin X\}$$としたことから、$$A \in A$$となってしまい矛盾する。
(4)$$A \in A$$と仮定する。このとき、$$A \notin \{X | X \notin X \}$$と なることから、$$A \notin A$$となってしまい、矛盾する。
(5)このことから、パラドックスが生じた。

これは一般的にラッセルのパラドックスと呼ばれ、このパラドックスを解消するための措置として 、ドイツの数学者エルンスト・ツェルメロ(1871 ~ 1953)と、イスラエルの数学者アドルフ・フレンケル(1891 ~ 1965)によって公理的集合論(ZF体型)として改良されていった。

このようなパラドックスを経ながら成立した集合論はやがて数学のそれ自体を考え直す、数学基礎論や、抽象代数学など、その後の現代数学における基礎として、発展していった。

集合

集合(set)とは「ものの集まり」を意味している。この集められる対象となる「もの」を集合の要素あるいは単に(element)という。(以下、元で統一する。)

元が1つもないような集合のことを空集合(empty set)といい、$$\emptyset$$と表現する。

集合を$$X$$、$$X$$の元を$$x$$としたとき、$$x$$ が$$X$$の元であることを、$$x \in X$$ 、あるいは$$x$$が$$X$$の元でないことを、$$x \notin X$$と表し、こうした集合の元と、元が含まれる集合との関係を帰属関係という。


$$X$$の全ての$$x$$が別の集合$$Y$$の元であるような関係( $$x \in X, x \in Y$$)を、$$X \subset Y$$, あるいは$$X \subseteq Y$$と表現し、このような集合同士の関係を包含関係と言い、この関係における集合$$X$$は、集合$$Y$$の部分集合(subset) $$X$$という。また$$x \in X$$であり$$ X \neq Y$$となるような包含関係を真部分集合(proper subset)という。


$$P$$を一つの数学的な命題とする。このとき命題$$P$$を満たすような $$x$$ を$$P(x)$$、また命題$$P$$を満たす $$x$$ 全体を$$\{ x | P(x)\}$$と表現する。

よって、例えば実数全体の集合$$\mathbb{R}$$は次のように表せる。

$$\mathbb{R} = \{x | -\infty < x < \infty \}$$

集合同士の演算

全体集合を$$U$$, $$U$$の元を$$x$$、部分集合を$$A, B$$とする。

このとき、$$x$$が$$A, B$$の元のいずれかであるような集合を和集合といい、次のように表す。

$$A \cup B \equiv \{ x \in U | x \in A$$ または $$ x \in B\}$$

また $$x$$ が$$A$$と$$B$$の共通の元であるような集合を共通集合いい、次のように表す。

$$A \cap B \equiv \{ x \in U | x \in A$$ かつ $$x \in B\}$$

このような、和集合$$A \cup B$$は、AとBの「結び」(join)と呼び、共通集合$$A \cap B$$は、AとBの「交わり」(meet)と呼ぶ。


$$A \cap B = \emptyset$$のとき、AとBは互いに素である。このときの$$A \cup B$$を$$A + B$$と表すことができ、これを$$A$$と$$B$$の直和という。

$$x$$が2つの$$A, B$$に対して、$$A$$のみの元であるような集合を差集合、またこのときの$$B$$を$$A$$に関する補集合$$B^\complement$$と言い、以下のように表すことができる。

$$B^\complement = A -B \equiv \{x \in U | x \in A, x \notin B\}$$

補集合に関する公式としてド・モルガンの法則がある。

$$ (A\cup B)^\complement = A^\complement \cap B^\complement\\ (A\cap B)^\complement = A^\complement \cup B^\complement $$

写像

集合を$$A, B$$、$$A, B$$の元をそれぞれ$$a, b$$とする。

$$A$$の各元に$$B$$の1つの元を対応させるような規則 $$f$$を$$A$$から$$B$$への写像(map)といい、$$f: A \rightarrow B$$と表す。

このとき$$A$$を 始域または$$f$$の定義域、$$B$$を終域、または $$f$$の値域という。

像と逆像

写像 $$f:A\rightarrow B$$によって$$a \in A$$に対応する$$B$$の元を、$$a$$の$$f$$によるといい、$$f(a)$$と表す。

一方で、$$B$$の元が対応する$$A$$のことを逆像といい、この場合、$$f^{-1}(a)$$と表す。


新たな集合$$C$$を考え、またその元を$$c$$とする。 2つの写像$$f: A \rightarrow B, g: B \rightarrow C$$に対して、$$f$$と$$g$$のこれを合成といい、$$f \circ g$$と表す。

またこの$$f \circ g$$は$$A$$から$$C$$への写像を意味している。

写像$$f: A\rightarrow B$$を考える。

このとき、始域となる集合$$A$$と終域の集合$$B$$の元が一致するときの関係を全射という。またこれを上への写像とも呼ぶ。

一方で、始域$$A$$の元が終域$$B$$の元と一対一で対応しているような関係を単射という。またこれを一対一写像とも呼ぶ。

さらに、始域$$A$$から終域$$B$$への上への一対一写像のとき、つまり全射かつ単射であるような関係を全単射と呼ぶ。

$$f: A \rightarrow A$$が$$f(a) = a, (a \in A)$$を満たすとき、これを恒等写像といい、$$i_a$$と表す。

直積とべき集合

直積

2つの空ではない集合$$A, B$$に対して、 $$A \times B \equiv \{ (a, b) | a \in A, b \in B\}$$ を$$A$$と$$B$$の直積集合、あるいはデカルト積という。このときの元$$(a,b)$$を順序対という。

たとえば$$A$$の元を$$(1, 3, 5)$$、$$B$$の元を$$(2, 4, 6)$$としたとき、これの直積$$A \times B$$は次のような順序対になる。

$$A \times B = \{ (1, 2), (3, 4), (5, 6)\}$$

また今度は反対に$$A$$と$$B$$を入れ替えた直積$$B \times A$$では次のような順序対になる。

$$B \times A = \{ (2,1), (4,3), (6,5)\}$$

このように、直積は$$A \times B \neq B \times A$$となる。


これはたとえば、2つの実数集合$$\mathbb{R}$$同士の直積$$\mathbb{R} \times \mathbb{R}$$を考えるとわかりやすい。

この直積は要するに片方の$$\mathbb{R}$$を$$X$$、もう片方を$$Y$$とおくと腑に落ちるように、これは普段、解析などで$$X$$軸、$$Y$$軸と呼び親しんでいるかの直交座標系に相当する。ともすれば、そこで順序対の元同士が入れ替わったら同じ意味にならないことは自明であろう。

また当然ながら、この直積にさらにもう1つ、実数集合$$\mathbb{R}$$を組み込んだ直積$$\mathbb{R} \times \mathbb{R} \times \mathbb{R}$$は空間座標系に相当することとなる。

こうした複数の、同じ集合同士の直積はたとえば$$\mathbb{R} \times \mathbb{R}$$なら$$\mathbb{R}^2$$、$$\mathbb{R} \times \mathbb{R}\times \mathbb{R}$$なら$$\mathbb{R}^3$$と表すことができる。特にこれが$$n$$個の同一の集合からなる直積であった場合、これを$$n$$次元ユークリッド空間と呼ぶ。

べき集合

集合$$A$$を考える。このとき、$$A$$の部分集合となるような集合全体をべき集合(冪集合)といい、$$P(A)$$と表す。

つまりべき集合では、それまで集合の元を適当な数字だったり文字だったりで具体的に表現していたところをその元もまた集合で、元として扱うことが特徴である。

たとえば集合$$A$$の元が$$\{ a, b,\}$$であった場合、単純に考えれば2つの元を持つ集合$$A$$とみれるが、これをべき集合と考えたとき、次のように表現される。

$$P(A) = \{(\emptyset ), (a), (b),(a,b)\}$$

このことからわかるようにべき集合の元の数は、単純な集合として見たときの元の数$$n$$を冪とする性質がある。

関係

同値関係

集合$$A$$と集合$$B$$による順序対による集合を二項関係という。この場合、直積$$R \subset A \times B$$の部分集合$$R$$を意味する。$$R-$$関係ともいう。 また$$n$$個の集合$$A, B, C \cdots$$との関係を$$n$$項関係という。

このとき、2次元ユークリッド空間$$A^2$$となるような直積$$A \times B$$が同値関係である、要するに全く同じ集合同士であるというためには次の条件を満たす必要がある。

1. 反射律を満たしている。: 任意の$$a \in A$$に対して$$(a,a) \in R$$
2. 対称律を満たしている。: $$(a, b) \in R$$ならば$$(b,a) \in R$$
3. 推移律を満たしている。: $$(a, b), (b, c) \in R$$ならば$$(a, c) \in R$$

上の条件を合わせて同値律といい、これを満たす同値関係$$A$$と$$B$$は、$$A$$~$$B$$とも表される。 $$R$$が$$X$$における同値関係のとき、各$$x \in X$$に対して次のような関係が成り立つとき、これを$$x$$の同値類と言い、$$[x]$$と表す。また$$x$$を$$[x]$$の代表元という。

$$[x] \equiv \{ y \in X ; (x, y) \in R \}$$

集合$$A$$上に同値関係$$R$$が与えられたとき、この同値類全体を$$A/R$$と書き、これを$$A$$の$$R$$による商集合という。