みゆの累乗恒等式(みゆのるいじょうこうとうしき)とは、複素数 $$z$$ の累乗を $$z$$ の一次式で表す恒等式である。
この恒等式は、実数 $$+1$$ と複素数 $$z$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 上で代数的に幾何を扱うことを主目的として みゆ により考案された。
目次
概要
複素数 $$z$$ の 正整数 $$n$$ 乗を、$$r=2\mathrm{Re}(z)$$ と $$l=|z|^2$$ を用いて次のように表す。
- $$\displaystyle z^n=\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^kr^{n-2k-1}l^{k}\right]z-\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-2)/2\rfloor}\binom{n-k-2}{k}(-1)^kr^{n-2k-2}l^{k}\right]l$$
- $$z^1=z$$
- $$z^2=rz-l$$
- $$z^3=(r^2-l)z-rl$$
- $$z^4=(r^3-2rl)z-(r^2-l)l$$
- $$z^5=(r^4-3r^2l+l^2)z-(r^3-2rl)l$$
- $$\quad\quad\quad\quad\vdots$$
特に $$z=e^{i\theta}$$ のとき、$$r=2\cos\theta$$、$$l=1$$ であることから
- $$\displaystyle z^n=\left[\sum_{k=0}^{\lfloor (n-1)/2\rfloor}\binom{n-k-1}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-1}\right]z-\sum_{k=0}^{\lfloor (n-2)/2\rfloor}\binom{n-k-2}{k}(-1)^k(2\cos\theta)^{n-2k-2}$$
- $$z^1=z$$
- $$z^2=2z\cos\theta-1$$
- $$z^3=(4\cos^2\theta-1)z-2\cos\theta$$
- $$z^4=(8\cos^3\theta-4\cos\theta)z-(4\cos^2\theta-1)$$
- $$z^5=(16\cos^4\theta-12\cos^2\theta+1)z-(8\cos^3\theta-4\cos\theta)$$
- $$\quad\quad\quad\quad\vdots$$
導出
$$\{a,b\in\mathbb{Z}\}、\{z\in\mathbb{C}\}$$ において、$$+1$$ と $$+i$$ を基底の元とする $$\mathbb{R}^2$$ 上の複素数 $$z=a+bi$$ を次のように二乗する。
\begin{align} z^2=&(a+bi)(a+bi)\\ =&(a+bi)(2a-(a-bi))\\ =&2a(a+bi)-(a+bi)(a-bi)\\ =&2a(a+bi)-(a^2+b^2)\\ =&2a(a+bi)-\sqrt{a^2+b^2}^2\\ =&2\mathrm{Re}(z)z-|z|^2\\ \end{align}
ここで、$$r=2\mathrm{Re}(z)$$、$$l=|z|^2$$ と置くと
\begin{align} z^2=rz-l \end{align}
両辺に $$z$$ を乗じると $$z^3=rz^2-lz$$ となり、右辺に $$z^2=rz-1$$ を代入することで $$z$$ の一次式へと変形できる。この操作を再帰的に繰り返し、任意の整数乗を一次式へと帰結させて恒等式を得る。
幾何への応用
複素平面上において、$$0$$ を始点とし $$+1$$ を終点とするベクトル $$\vec{s}$$ と、同じく $$0$$ を始点とし実数ではない任意の複素数 $$z$$ を終点とするベクトル $$\vec{t}$$ は線形独立である。$$\vec{t}$$ を、原点を中心として $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ の成す角度の整数倍回転させて得られるベクトル $$\vec{u}$$ は、この累乗恒等式によって $$\vec{s}$$ と $$\vec{t}$$ を基底の元とするベクトル空間上に表現可能である。
みゆの三辺比定理
$$+1$$ と $$z=e^{i\theta}$$ を元とする基底空間において、内角の一つに $$\psi=(\pi-\theta)~\mathrm{rad}$$ をもつ三角形を想定する。
$$\psi~\mathrm{rad}$$ である内角の対辺を $$x+yz$$ で表現する。ここで見出すことのできる三角形の三辺比は、
- $$x$$ : $$y$$ : $$|x+yz|$$
であるが、余弦定理を用いることで次のようにも表現できる。
- $$x$$ : $$y$$ : $$\sqrt{x^2+y^2-2xy\cos\psi}$$
この三角形における $$\psi~\mathrm{rad}$$ の対辺に対し、原点側の内角を2倍して得られる直線は
- $$(x+yz)^2=x^2+y^2z^2+2xyz$$
を通る。この座標はみゆの累乗恒等式を用いることで
- $$(x+yz)^2=x^2+y^2(2z\cos\theta-1)+2xyz=(x^2-y^2)+2(x+y\cos\theta)yz$$
と表すことができ、これによって示される新たな三角形の三辺比は
- $$x^2-y^2$$ : $$2(x+y\cos\theta)y$$ : $$|x+yz|^2$$
である。これは先程の余弦定理を用いた表現によって
- $$x^2-y^2$$ : $$2(x+y\cos\theta)y$$ : $$\sqrt{x^2+y^2-2xy\cos\psi}^2$$
と置き換えることができ、$$\theta$$ と $$\psi$$ の関係から
- $$x^2-y^2$$ : $$2(x-y\cos\psi)y$$ : $$x^2+y^2-2xy\cos\psi$$
と言える。この比は、内角の一つに $$\psi~\mathrm{rad}$$ を持つ三角形の三辺比を示しており、
このような三辺比を代数比で表現できるという定理を発見者の みゆ にちなんでみゆの三辺比定理という。
ちなみに、余弦定理を用いると以下の恒等式を導くことができ、
- $$(x^2-y^2)^2+\left[2(x-y\cos\psi)y\right]^2-4(x^2-y^2)(x-y\cos\psi)\cos\psi=(x^2+y^2-2xy\cos\psi)^2$$
特に $$\cos\psi$$ が有理数値であるような内角を持つ三角形の三辺比は、みゆの三辺比定理を用いて整数比で表すことができる。 \begin{array}{lrl} 内角の一つが~\psi=~\frac{\pi}{2}~\mathrm{rad}&(90^{\circ})&~&x^2-y^2&:&2xy&:&x^2+y^2\\ 内角の一つが~\psi=~\frac{\pi}{3}~\mathrm{rad}&(60^{\circ})&~&x^2-y^2&:&2xy-y^2&:&x^2+y^2-xy\\ 内角の一つが~\psi=\frac{2\pi}{3}~\mathrm{rad}&(120^{\circ})&~&x^2-y^2&:&2xy+y^2&:&x^2+y^2+xy\\ \end{array}