一方、一番下の例は「空集合のみを要素に持つ集合」である。この集合には空集合という要素が\( 1 \)個あるので、その濃度は\( 0 \)ではなく\( 1 \)である。
以下は、濃度に関する当然だが重要な事実である。\( A, B \)は有限でも無限でもよい集合とする。無限集合の濃度は次の節で扱う。は有限集合とする。
* \( A \)を定義域、\( B \)を終域とする全射が存在するとき、\( A \)の濃度は\( B \)の濃度以上である。
$$ f(x) = 2x $$
とすると、これは全単射である。全単射が存在するということは、濃度は同じでなければならない。とすると、これは全単射である。全単射が存在するということは、濃度は同じでなければならない。有限集合の場合は、「全単射が存在するとき、濃度が等しい」は濃度に関する性質であったが、無限集合の場合は逆にこれを定義とする。濃度の以上、以下の関係についても同様に定める。すなわち、無限集合\( A, B \)に対して
[全単射による等濃* \(equinumerousA \)の定義を挿入]を定義域、\( B \)を終域とする全射が存在するとき、\( A \)の濃度は\( B \)の濃度以上である。* \( A \)を定義域、\( B \)を終域とする単射が存在するとき、\( A \)の濃度は\( B \)の濃度以下である。* \( A \)を定義域、\( B \)を終域とする全単射が存在するとき、\( A \)の濃度は\( B \)の濃度と等しい。 が成り立つように無限集合の濃度を定義する。このように定義すると、きちんと濃度の「等しい」「以上」「以下」が自然数の大小関係に似た性質を持つ、すなわち濃度に大小関係があるとみなせることが知られている。 最小の無限集合の濃度は\( \mathbb{N} \)の濃度である。その濃度を\( \aleph_0 \)(アレフ・ゼロ)と書く。 整数全体の集合\( \mathbb{Z} \)の濃度は\( \aleph_0 \)である。これは、次のような\( \mathbb{N} \)と\( \mathbb{Z} \)の間の全単射が存在することからわかる: $$ f(0) = 0, f(1) = +1, f(2) = -1, f(3) = +2, f(4) = -2, \cdots $$ これよりも複雑な全単射を用いることで、有理数全体の集合\( \mathbb{Q} \)の濃度も\( \aleph_0 \)であることが知られている。
[アレフ0とアレフ1の定義を挿入]一方、\( \mathbb{R} \)の濃度は\( \mathbb{N} \)の濃度より大きい(すなわち等しくない)ことが知られている。\( \mathbb{R} \)の濃度を'''連続体濃度'''といい\( \mathfrak{c} \)で表す。
==第1¾章 カントールの対角線論法==
===第1節 連続体濃度===
連続体濃度は\( \aleph_0 \)ではないことが知られている。この節では、このことを背理法で証明する。
そのために、連続体濃度が\( \aleph_0 \)であると仮定する。すなわち、\( \mathbb{N} \)と\( \mathbb{R} \)の濃度が同じ、すなわち\( \mathbb{N} \)から\( \mathbb{R} \)への全単射が存在すると仮定する。そのような全単射をひとつとり\( f \)とする。\( f \)の値を次のようにリストアップする。ただし、右辺は実数の十進数表記である:
\begin{align*}
f(0) =& \pm a_{00}.a_{01}a_{02}a_{03} \cdots \\
f(1) =& \pm a_{10}.a_{11}a_{12}a_{13} \cdots \\
f(2) =& \pm a_{20}.a_{21}a_{22}a_{23} \cdots \\
f(3) =& \pm a_{30}.a_{31}a_{32}a_{33} \cdots \\
\vdots&
\end{align*}
ここで、実数\( r' \)を以下の方法で構成する:
* \( r' \)の符号は\( + \)とする。
* \( r' \)の整数部分は、\( a_{00} \)と異なる数にする。
* \( r' \)の小数第\( n \)位は、\( 0, 9, a_{nn} \)のどれとも異なる数にする。すなわち、\( r' \)の小数第\( n \)位が\( f(n) \)の小数第\( n \)位と異なるようにする。\( 0, 9 \)を排除したのは、\( 0.999\cdots = 1.000\cdots \)という問題を避けるためである。
このように構成した\( r' \)に対して方程式\( f(x) = r' \)を考えると、\( x = 0 \)は解ではない。なぜなら、両辺の整数部分が異なるからである。また、任意の自然数\( n \)に対して、\( x = n \)は解ではない。なぜなら、両辺の小数第\( n \)位が異なるからである。
したがって、\( f(x) = r' \)は解を持たず、これは\( f \)が全単射であることに矛盾する。
よって、背理法により、連続体濃度は\( \aleph_0 \)ではないことが示された。
===第2節 冪集合===
集合\( A \)の冪集合\( \mathcal{P}(A) \)を、\( A \)の部分集合全体の集合と定義する。以下に例を示す。
$$ \mathcal{P}(\emptyset) = \{ \emptyset \} $$
$$ \mathcal{P}(\{ X \}) = \{ \emptyset, \{ X \} \} $$
$$ \mathcal{P}(\{ a, b \}) = \{ \emptyset, \{ a \}, \{ b \}, \{ a, b \} \} $$
$$ \mathcal{P}(\{ 1, 2, 3 \}) = \{ \emptyset, \{ 1 \}, \{ 2 \}, \{ 1, 2 \}, \{ 3 \}, \{ 1, 3 \}, \{ 2, 3 \}, \{ 1, 2, 3 \} \} $$
数学Aの「集合と論理」では、「\( A = \{a, b \} \)の部分集合を全て書け」のような問題があるが、冪集合はそのような問題の答えの両端に\( \{ \)と\( \} \)を付けたものだと考えるとわかりやすいだろう。
もちろん、\( \mathcal{P}(A) \)は無限集合に対しても定義される。例えば、
$$ \{ 1, 3, 25 \} \in \mathcal{P}(\mathbb{N}) $$
$$ \{ x \mid xは正の偶数 \} \in \mathcal{P}(\mathbb{N}) $$
$$ \left\{ \frac{a+b\sqrt{5}}{2} \mid a, b は整数 \right\} \in \mathcal{P}(\mathbb{R}) $$
である。\( \mathcal{P}(A) \)は「\( A \)の部分集合をすべて集めた集合」なので、\( \subset \)ではなく\( \in \)であることに注意せよ。
また、\( \mathcal{P}(\mathbb{N}) \)の濃度は\( \mathbb{R} \)の濃度と等しいことが知られている。
===第3節 カントールの対角線論法===
出典: [https://mathtrain.jp/cantor 高校数学の美しい物語「カントールの定理の証明と対角線論法」]
ここでは、任意の集合\( A \)に対し、\( \mathcal{P}(A) \)の濃度が\( A \)の濃度より大きいことを示す。
「\( A \)を定義域、\( \mathcal{P}(A) \)を終域とする関数」を考える。これは、\( A \)の要素を入力すると、\( A \)の部分集合が出力される関数だと思えばよい。
\( A \)を定義域、\( \mathcal{P}(A) \)を終域とする関数\( f \)を\( f(a) = \{ a \} \)とすると、これは単射である。したがって、\( A \)の濃度は\( \mathcal{P}(A) \)の濃度以下である。
\( A \)の濃度が\( \mathcal{P}(A) \)の濃度と等しくないことを背理法で示す。そのために、等しいと仮定する。このとき、\( A \)を定義域、\( \mathcal{P}(A) \)を終域とする全単射\( g \)が存在する。
このとき、次のような\( A \)の部分集合を考える:
$$ B = \{ b \in A | b \not \in g(b) \} $$
\( b \)は\( A \)の要素、 \( g(b) \)は\( A \)の部分集合であるから、\( b \in g(b) \)という命題が意味を持つ。この命題が偽であるような\( b \)だけを集めて作った\( A \)の部分集合が\( B \)である。
\( g \)は全単射であるから、\( g(a) = B \)を満たす\( a \in A \)が存在する。\( B \)は\( A \)の部分集合なので、\( a \in B \)または\( a \not \in B \)のどちらかが成り立つ。しかし、その両方が成り立たないことを示す。
\( a \in B = g(a) \)であるとすれば、\( a \)は\( a \not \in g(a) \)を満たさないので\( B \)の要素ではない。したがって、\( a \in B \)はありえない。
\( a \not \in B = g(a) \)であるとすれば、\( a \)は\( a \not \in g(a) \)を満たすので\( B \)の要素ではない。したがって、\( a \not \in B \)もありえない。
これは矛盾である。矛盾が生じたので、\( A \)の濃度が\( \mathcal{P}(A) \)の濃度と等しくないことが示された。
以上より、任意の集合\( A \)に対し、\( \mathcal{P}(A) \)の濃度が\( A \)の濃度より大きいことが示された。
===第4節 一般連続体仮説===
\( \aleph_0 \)は最も小さい無限集合の濃度であった。無限集合の濃度は順序数に沿って並べることができ、小さい方から
$$ \aleph_0, \aleph_1, \aleph_2, \cdots, \aleph_{\omega}, \aleph_{\omega+1}, \cdots, \aleph_{\omega2} \cdots \cdots $$
と並ぶ。
ここで、次の問題を考える:
任意の無限集合\( A \)に対し、\( A \)の濃度と\( \mathcal{P}(A) \)の濃度の間の濃度は存在しないといえるか?
この問題は、ZFCと呼ばれる通常の数学の枠組みでは解けない(YESであることもNOであることも証明できない)ことが知られている。
[実数と自然数に対するカントールの対角線論法を挿入]そこで、この問題の答えがYESであるという命題を一般連続体仮説と呼び、この記事ではそれを信じることにする。「信じる」というのは数学的ではないかもしれないが、そもそも何も信じなければ数学を始められないので、一般連続体仮説を信じることにする。
[一般の集合に対するカントールの対角線論法を挿入]このとき、次の命題が成り立つ:
[一般連続体仮説を挿入]もし無限集合\( A \)の濃度が\( \aleph_{\alpha} \)であれば、\( \mathcal{P}(A) \)の濃度は\( \aleph_{\mathrm{succ}(\alpha)} \)である。
==第2章 基数と共終数==
===第1節 基数===
順序数\( \kappa \)が基数であるとは、すべての\( \alpha < \kappa \)に対して\( \alpha \)と\( \kappa \)の間に全単射が存在しないことを言う。
[基数の定義と例を挿入]同じことであるが、基数とは「濃度が同じ中で最小の順序数」であるといえる。
たとえば、有限の整数\( n \)に対応する順序数\( O_n \)は全て基数である。なぜなら、濃度が\( n \)であるような順序数は\( O_n \)しかないからである。 一方、\( O_{\omega} \)は基数であるが、\( O_{\omega + 1} \)は基数ではない。なぜなら、\( O_{\omega} = \{ O_0, O_1, O_2, \cdots \} \)から\( O_{\omega + 1} = \{ O_0, O_1, O_2, \cdots, O_{\omega} \} \)への全単射として $$ f(O_0) = O_{\omega}, f(O_1)=O_0, f(O_2)=O_1, \cdots, f(O_n)=O_{n-1}, \cdots (n \geq 1) $$ が存在するからである。同様に、\( O_{\omega+2}, O_{\omega2} \)なども基数ではない。 一方、基数は\( O_0, O_1, O_2, \cdots, O_{\omega} \)で終わりかというとそうではなく、各濃度に対して1つ基数が存在する。 濃度\( \aleph_1 \)に対応する基数を[共終数の定義と例を挿入https://googology.wikia.org/ja/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%80%E9%9D%9E%E5%8F%AF%E7%AE%97%E9%A0%86%E5%BA%8F%E6%95%B0 第一非可算順序数]といい、\( \Omega \)や\( \omega_1 \)で表す。 同様に、\( \aleph_2, \aleph_3 \cdots \)に対して\( \Omega_2, \Omega_3, \cdots \)が存在する。また、\( \aleph_{\omega} \)に対応する基数は\( \Omega_{\omega} \)である。 \( \Omega \)は順序数であるから、\( \aleph_{\Omega} \)という濃度が存在し、それに伴って\( \Omega_{\Omega} \)も存在する。一般に、任意の順序数\( \alpha \)に対して基数\( \Omega_{\alpha} \)が存在する。 ===第2節 共終数===順序数\( \alpha \)に対し、その'''共終数'''\( \mathrm{cof}(\alpha) \)を以下で定義する。 * \( \alpha = 0 \)のとき\( \mathrm{cof}(0) = 0 \)* \( \alpha = \beta + 1 \)のとき\( \mathrm{cof}(\beta + 1) = 1 \)* \( \alpha \)が極限順序数のとき、\( \displaystyle{\lim_{\beta < \kappa} f(\beta)} = \alpha \)となるような基数\( \kappa \)と\( f \)を考える。このとき、\( f \)が何であろうと\( \kappa \)は同じ順序数となる。この\( \kappa \)を\( \mathrm{cof}(\alpha) \)とする。 多くの極限順序数において、その共終数は\( \omega \)である。たとえば、\( f (\beta) = \beta \)とすると、\( \displaystyle{\lim_{\beta < \omega} f(\beta)} = \omega \)であるから、\( \mathrm{cof}(\omega) = \omega \)である。また、\( f (\beta) = \omega + \beta \)とすると、\( \displaystyle{\lim_{\beta < \omega} f(\beta)} = \omega2 \)であるから、\( \mathrm{cof}(\omega2) = \omega \)である。 \( \Omega \)の共終数は\( \Omega \)である。すなわち、\( \displaystyle{\lim_{\beta < \omega} f(\beta)} = \Omega \)となるような順序数の関数\( f \)は存在しない。一般に、後続順序数\( \alpha \)に対し\( \Omega_{\alpha} \)の共終数はそれ自身である。 このように、共終数がそれ自身である順序数を'''正則基数'''という。共終数の定義から、正則基数は明らかに基数である。 全ての基数が正則順序数であるわけではない。たとえば、\( f(\beta) = \Omega_{\beta} \)とおくことにより、\( \mathrm{cof}(\Omega_{\omega}) = \omega \)であることがわかる。
==第3章 到達不能基数==
出典: [https://googology.wikia.org/ja/wiki/%E5%88%B0%E9%81%94%E4%B8%8D%E8%83%BD%E5%9F%BA%E6%95%B0 巨大数研究Wiki「到達不能基数」]
順序数\( \alpha \)が到達不能基数であるとは、次の3つの条件を満たすことである。
* \( \alpha \geq \Omega \)である。
* \( \alpha \)は正則である。すなわち、\( \alpha \)の共終数は\( \alpha \)である。
* \( \alpha = \Omega_{\beta} \)となるような\( \beta \)が存在し、その\( \beta \)は極限順序数である。<ref>この記事ではGCHを仮定しているため、3番目はアレフ数でもベート数でも同じことである。</ref>
最小の到達不能基数は記号\( I \)で表される。
[到達不能基数の定義を挿入]\( \Omega_{\Omega_{\Omega_{\ddots}}} \)は到達不能基数ではない。なぜなら、共終数が\( \omega \)だからである。\( I \)はこれよりもはるかに大きい。
[ZFCとの独立性に関する言及を挿入]\( I \)はあまりにも大きいので、ZFCが無矛盾である場合、その存在を証明できない(存在するかどうかわからない)ことが知られている。
==脚注==
<references />